Dance Campクリエイション&ダイアローグ・ワークショップ byディーン・モス&余越保子 Dance Campクリエイション&ダイアローグ・ワークショップ byディーン・モス&余越保子
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2019報告書「フリツケカをイクセイする?」

Dance Campクリエイション&ダイアローグ・ワークショップ byディーン・モス&余越保子

水野立子/Dance Camp Project 
2020.12.21

2019年度の実施報告書「フリツケカをイクセイする?」(2020年7月発行)から、城崎プラットフォーム の水野さんのご報告をピックアップ紹介します。

なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、2019年度の成果、どんな振付家を育成したいと考えているか、をお聞きしました。ぜひご覧ください。


2019年度に実施したプロジェクトについて。なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、当初目的に対する成果、そして今後の展望などをお聞かせください


 作品をつくる作家・振付家を目指そうとする若手が減少傾向にあります。その理由の一つとして、国内外で作品を発表し職業として成立する振付家の成功例が少なく、若い世代が目指そうにも将来の展望が持てない、経済的な不安材料が多いという要因があげられます。たとえ振付家を目指しても、国内にダンス専門の芸術大学がないため、理論と実践の両方を基礎から総合的に学ぶ機会が持てません。欧米に留学するか、カンパニーに入りダンサーとして経験を積み独学するか、不定期の振付ワークショップに参加するか、限られた選択肢の中で切磋琢磨していくしかありません。結果的に、十分な準備ができないまま作品を発表し行き詰まってしまう、孤立感を抱えてしまうなど、活動継続の難しさから、意欲を阻まれしまう現状がみえてきます。

 このような若手振付家にとって、どのような<育成>プログラムが有効なのかを考えると、まずは「振付家として身を立てたい」という若い作家の意欲をつぶさない――アーティストして存在する意義や、作品制作にポジティブに向かえる自信と勇気を後押しすることが先決だと考えました。そのために立案したのが、ダンス・キャンプの企画です。作家自身の制作途中の作品を持ち込み、集中した滞在型クリエイションを行い、作品を成熟させようとする。その過程において、講師=メンターや、他の参加アーティストが、作品についてコミットメントを交わしていく。作品をつくる作者と受け手の両方の役割が在る環境に身を置くことで、作品が本来持っている凝縮と求心に向かって、没頭できるのではないか。


 では、具体的にどのような方法でこのプランを実現できるのだろうか。N.Y.のディーン・モスと余越保子の両氏が、長い年月をかけてバージョンアップし続けてきた“ダイアローグ・ワークショップ”――創作過程において振付家にダイアローグを促し、「語ること」で目指す作品世界を明確にしていく手法――がベストだと思いました。日本の若手育成に携わる余越さんとミーティングを重ね、私のダイアローグ・ワークショップへの理解を深めていきました。

 作品制作において、講師が振付家に答えを与えることはできません。参加するアーティストが主体となり、彼ら自身が作品と向き合い実験を繰り返していく、そのプロセスを積み重ねていく先にしか見えないもの。そのためには、講師料を参加者から徴収せず、先生と生徒という受け身の関係を払拭し、キャリアは違うがアーティスト同士の関係を保ちながら作品へのコミットを交わし、振付家としての自立を促していくこと。成果発表日を設けるが、完成された作品を観客に披露することを目的とせず、プレッシャーを与えない。むしろ、日々のワークで失敗を恐れず、最後までチャレンジングな試みができるよう、プロセス重視の選択肢を設ける。毎日の終わりに経過発表を行い、他の参加者とメンターのダイアローグを聞き、リクリエイションする。あるいは、単独でメンターとの密な時間を持ち、再び稽古場に向かう――日々の膨大なコミットメントを得ることで視野を広げ、新たな着想を得ていく。


「目の前でおきていることを言葉にする。」というお題をメンターからもらい、ダンスという抽象を敢えて言語化し他者に投げかけ、フィードバックを重ねる。振付家自身が主体と客体を往来し、作品の本質に近づいて行こうとしたハードな7日間。参加者は、初日のぎこちなさから、徐々に言葉と思考と具現化の回路が開かれ、作品が変容を見せ始める。そこには、キャリアのあるメンターから、若いアーティストたちへの尊敬を持った問いかけがあることが重要だった。

 参加者がこのプロセスを体験したことで、具体的なクリエイションのアプローチ方法を自らが学びとり、アーティストとしての存在意義、つくることに肯定的な自信、作品制作に向かう希望を得られたこと、未来への可能性に繋げられたことが、最大の成果だと言えます。

 会場提供の城崎国際アートセンター、「ダンスで行こう!!」の助成、ディーン&余越さんの献身的なメンター、全ての大きなサポートに感謝します。

あなたは、どういう振付家を育てたいと思いますか。
また、そうした振付家を育てるために、何が大事だと考えていますか。


 私がコンテンポラリーダンス/パフォーマンス作品を観るときに期待することは、自分では予想がつかない振付家がつくる世界観に出会えることです。小説・美術・映画など他のジャンルでも言えることかもしれませんが、異なることは、言葉では説明できないリアルな身体の介在により、そこに美学と身体性が共存する点だと思います。作品をつくる振付家と私たち観客は、社会を取り巻く多様な情報の中で同時代を生きています。振付家は、思想や身体への着眼点から“ある価値”を提示してくれる。観る側は、そこから生きるヒントを得、活路を見出したいと願っています。世界金融の不平等、貧困格差社会、環境破壊など世界中に蔓延する不安や不満と共存する時代だからこそ、若手振付家の未知の発想と創造力を欲しています。コンテンポラリーアートは、いつの世もその時代と共に生み出され、人々の糧として存在する力があります。

 まだマスの小さなコンテンポラリーダンスは、サポートがなければ先細りし消滅の危機さえ感じられることもあります。フェスティバルのプログラム・教育・カンパニーの活動・地域での活動・海外からの優れた作品の上演など、活性化した幅広の環境・肥えた土地の中から、人材は培われてくるものだと思います。


 国際的にみて、コレクティブな多ジャンルのアートで編成されるパフォーマティブ・アートが、世界の主流の表現となっている昨今、コンテンポラリーダンスは適したポジションにあり、振付家が世界に出るチャンスが高い。ジャンルを越境したコミュニケーション力が要求され、対応できる技術や発想力が必要です。そのために、失敗や無駄を臆さず、実験的な試みを気軽に試演でき、ポジティブな批評をアーティスト間で交わせる恒常的な場の創設が有効だと考えます。

 また、日本にコンテンポラリーダンスの概念が西洋から入ってきて以来、振付家やダンサーは欧米に学び影響を受けてきましたが、アジア・日本の身体性に目を向け始めています。学ぶべき宝庫の山、自国の民族芸能・古典芸能に、コンテンポラリーダンスの新時代を見出すチャンスが現存しているように思います。

(コンテンポラリーダンス・プラットフォームを活用した振付家育成事業「ダンスでいこう‼」2019報告書 フリツケカをイクセイする? 第二章p34-41)



水野立子 MIZUNO RITSUKO

Dance Camp Project
2017年より振付家・ダンサーのための育成プログラムを集中した合宿形式で、城崎国際アートセンターで開始。2017年は、青木尚哉<グループワーク&リサーチ>、余越保子<ダンス&プロセス>、2018年は、<実践的ダンス・ワークショップ>として、寺田みさこ<動きの解像度を上げる~バッハ「フーガの技法」を踊る>、余越保子<コンテンポラリーダンサーが日本舞踊の古典作品を踊ってみる>、康本雅子<音楽にIN OUT>、みずのりつこ<舞踏の身体訓練~金粉パフォーマンス>を行った。

文化庁委託事業「令和2年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
主催:文化庁/NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)
各地共催・制作・協力:北海道コンテンポラリーダンス普及委員会/ダンスハウス黄金4442/Dance Camp Project/
城崎国際アートセンター(豊岡市)/NPO法人DANCE BOX/FREE HEARTS/広島市安芸区民文化センター/C3/Contact Choreograph Crossing/
一般社団法人ダンスアンドエンヴァイロメント/micelle/あけぼのアート&コミュニティーセンター(札幌)/ボディ・アーツ・ラボラトリー/
NPO法人コデックス/ダンスヒストリー・スタディーズ/Dance New Air(一般社団法人ダンス・ニッポン・アソシエイツ)/
京都芸術センター(Co-programカテゴリーD「KACセレクション」採択企画)
事務局・総合問合:NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)
統括:佐東範一 運営:神前沙織、榊原愛
〒600-8092 京都府京都市下京区神明町241オパス四条503
Tel: 075-361-4685    Fax: 075-361-6225    MAIL:info@jcdn.org    Web: http://www.jcdn.org
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