「ダンスを撮る!」
ダンス映像撮影ワークショップ
2019年度の実施報告書「フリツケカをイクセイする?」(2020年7月発行)から、
創造環境パートナー/ダンスメディア の宮久保さんのご報告をピックアップ紹介します。
なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、2019年度の成果、どんな振付家を育成したいと考えているか、をお聞きしました。
ぜひご覧ください。
なお、ダンスメディアの『「ダンスを撮る!」ダンス映像撮影ワークショップ』は2020年も継続して行います。
全5日間の講座(2020年10月)すべてをオンラインで開講されます。
2019年度に実施したプロジェクトについて。なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、
当初目的に対する成果、そして今後の展望などをお聞かせください
ダンスフェスティバル「Dance New Air」を2015年に法人化した際、フェスティバルを共催しているシアター・イメージフォーラム内に事務所を置くことになりました。このご縁で、イメージフォーラム映像研究所が毎夏に開催しているサマースクールのプログラムにダンス要素の内容を加えましょうということになり、「ダンス映像撮影ワークショップ」を2017年からスタートとさせました。
企画の発端は、以前、コンペティションの第一次審査で多くのダンス映像作品を審査する機会に、その映像レベルのばらつきに驚いたことがきっかけです。また、海外の振付家に「日本は、スペックが高く安価な機材が手に入る環境があるのに、十分に使いこなしている人が少なくてもったいないね」と言われたことも思い出しました。ちょうどYoutube、Instagramに加え、スマートフォンの映像用アプリも増えてきた時期でもあり、映像をうまく自身の活動の広報に使う人が増えてきたタイミングだったと記憶しています。
講師をお願いする方は、作品創作力と技術的知識とのバランスがとれていて、尚且ダンスにも精通している必要があります。検討した結果、振付家・ダンサーでもある映像作家の吉開菜央さんにお願いすることに。吉開さんは日本女子体育大学で舞踊を学んだ後、東京芸術大学大学院映像研究科に進学された方で、代表作の「ほったまるびより」は、文化庁メディア芸術祭で受賞しています。
2017年から毎年夏に1度の開催で、2019年が3回目。「ダンスでいこう!」へ参加することで、より広くダンス関係者の参加を促せることを期待しましたが、長年老舗映画館であるイメージフォーラムが開催している枠組ということもあって、参加者12名の内、ダンス関係者は半分にも満たないことはこれまでと同様でした。
多くは映画、映像に関心の高い、イメージフォーラムによくアクセスする層で、年齢の幅は20才から60代まで。実際に劇場でダンス作品を観たことがない参加者も数名いましたが、ダンスを被写体とすることへの期待は高く、みなさん大変積極的な参加でした。
実践を重ねるごとに更新点があることから、講師は連続して吉開氏に依頼。毎回1日目は導入として、ローザスをはじめとする様々なダンスフィルムやダンス的な感覚が内包されている映画、映像、そして吉開氏自身の作品を鑑賞。身体の動きを「観ること」「撮ること」「編集すること」について考えさせる時間をつくっています。
2日目は参加者自身が動くワークショップを行い、
その延長線で「振付」「振り付けられること」「自身の動き」「人の動き」に深く入り込んでいきます。2日目後半から3〜4名のグループに分け、吉開氏の振付を各参加者が覚え、
それを撮影する基礎を学び、3日目は全時間を撮影にあてました。最終日はそれぞれ3分以内に編集したものを順次発表、それに対しての講評と意見交換を行い、その後打ち上げをしながら、さらに映像やダンスについて語り合いました。
2017年、2018年の開催の時は、吉開さんが振り付けたものをプロのダンサー数名に踊ってもらい、その様子を撮影しましたが、今回はWS参加者自身に振りを付けて、自分でも踊ってもらい、さらに撮影もするという内容に変更。この方法は出来上がった作品に顕著に表れました。振付内容(動き、流れ等)を理解した上で、撮影・編集することで、踊っている時の感覚が撮影時に生まれるのだと思います。前回、前々回では、動きがぶつ切りされ編集されていたものが多かったことに比べると、振りの流れを重視したものや、特定の動きに強く焦点をあてた内容のものなどの特徴が見られました。 劇場で作品を楽しむことがいつ日常になるか分からない今、さらに映像でのアプローチが増えると思います。一つのダンス作品として、踊っている身体のみならず、その背景、新たな視点を加えたダンスの魅力を伝えるアーティストをこのワークショップを通して引き続き育成し、コロナ禍を契機に、他国に比べてダンスフィルムの地盤がない日本から、より多くのダンスフィルムアーティストが生まれてくることを切に願います。
あなたは、どういう振付家を育てたいと思いますか。
また、そうした振付家を育てるために、何が大事だと考えていますか。
コンテンポラリーダンスの振付家は、総合芸術であるダンスの創作者として「振りを付ける」以外の要素をいかに持っているかが重要だ、と私は考えます。全てを自身で行うという意味ではなく、表現者であるダンサー・出演者の選択はもちろんのこと、いかに作品に必要な力を持った人を仲間に入れられるかということ。自分が気づいていない、足りていない要素についてサポートしてくれる人やモノは、小さい世界の中だけでは見つけることは容易ではありません。
私たちを刺激してくれる作品を創作するアーティストは、日常からたくさんのモノゴトをインプットし、蓄積しています。アーティストの素地として、関心の幅が元々広いのかもしれませんが、多様な社会と結びついています。その作品を通して見えてくるものは、例えば表面は楽しげなものにくるまれていても、その奥に社会への鋭い視点が内在し、観ている側にその問題を気づかせてくれるとても重要なメッセージです。
作品の要となる種をどのように見つけ、それをどのように育てていくか。そこにどのような栄養素を加え、花開かせ、実らせるのか。実ったものをどのように届けるのか。方法は一つではなく、おそらく私たちの生きているこの社会にヒントがたくさんあるはず。
「振付家育成」という言葉自体は一方的に感じる人も多いと思いますが、この企画のように様々な地域で、多くの手法から、気づきへの道筋をつけることの意義は大変深いと思います。
(コンテンポラリーダンス・プラットフォームを活用した振付家育成事業「ダンスでいこう‼」2019報告書 フリツケカをイクセイする? 第二章p80-81)