ダンスアートプロジェクト!!
2019年度の実施報告書「フリツケカをイクセイする?」(2020年7月発行)から、広島プラットフォーム の島村さんのご報告をピックアップ紹介します。
なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、2019年度の成果、どんな振付家を育成したいと考えているか、をお聞きしました。ぜひご覧ください。
なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、当初目的に対する成果、そして今後の展望。
FREE HEATSでは、1992年から地元ダンサーと共に首都圏のダンサーを招聘し、ダンス公演ワークショップ等を開催しております。
当時、地元でダンス情報を手に入れるには、ダンス情報誌や特別なルートで手に入った公演ビデオに頼るのみでした。当然、新しいダンス表現であるコンテンポラリーダンスの存在など知るよしもなく、広島に伝わるにも時間がかかりました。既存のダンスにはない自由な表現、枠を超えた新しい作品、首都圏から取り寄せたダンス雑誌に記載された魅力的なこのフレーズが、新しいダンスを伝えたいという思いに拍車を掛けます。
地方都市において、ライブ感覚で伝えるダンス芸術は伝わりにくいので、2000年にはコンテンポラリーダンスの公演を観るために、幾度となく上京し劇場に足を運んだものです。そんな情報集めもマックスに達した頃でした。
背中を押してくれるように2003年JCDN主催の「踊りに行くぜ!!」広島公演が決定しました。コンテンポラリーダンスの作品募集を始め選考会開催など、地元にとっては初めての事ばかりで、全て手探り状態でした。応募作品には従来のダンサーだけでなく、ジャンルを超えて芸術学部彫刻科の学生や、演劇界でダンス作品を創る役者まで応募してくれました。
「踊りに行くぜ!!」巡回公演の広島での開催は、まさしくダンスの多様化の幕開けでも有りました。芸術学部彫刻科の大学生グループ「身体表現サークル」は巡回公演にも選考され、ふんどし姿のアーティストの作品が各地で話題となります。後に活動範囲が広がった振付の常楽泰氏は、米国に半年間の交換留学の機会を手にします。他にも横浜ダンスコレクションにて「在日フランス大使館賞」を受賞し、フランス留学を果たした者も現れました。地元から国内外で活躍できる、先人たちの成功例があることで、広島のコンテンポラリーダンスの勢いは2009年の「踊りに行くぜ!!」ファースト終了まで止まることを知りませんでした。
あれから10年というブランクの中、地元のダンスの状況は様変わりしています。
ストリートダンスが社会現象のように現れ、その盛り上がりはマスメディアにも取り上げられストリートを踊る子供たちは、この広島でも急激に増えています。
その反面コンテンポラリーダンスは公演も激減し、コンテンポラリーダンス離れは加速していくばかりです。これから地元で多彩なエネルギー有る舞台を創っていくためにも、ダンスを楽しく踊るだけではなく、自己表現の面白さと、作品創りの醍醐味を伝えるコンテンポラリーダンスの振付家育成を、早急に進めなければならないと考えていました。
そんな時に、JCDNから振付家育成事業のお話を頂き、地元にとって願ってもないことと、参加する事にしました。
2019年度のプログラムでは、若者達に今最も盛り上がっている、ストリートダンスなどの他ジャンルのダンサー達にも、興味もってもらえるように募集要項の中に「若手」ダンサーと記載しました。その為、多くの参加者が10代後半から20代全般(最高齢30歳)を中心とした顔ぶれとなりました。広島市近郊に留まらず、県外からの参加者も数名みられ、またダンスの経歴もジャンルも異なり、今回も演劇や映像といったダンス以外の表現者の参加もありました。若い層ということで、ダンス作品の創作経験については、ほぼ未経験という者が大半ではありましたが、ダンサーたちの「創ってみたい」と前向きな姿勢が、ワークショップ四日目には、テクニカルスタッフとの照明合わせ、音楽や照明の転換のタイミングの確認、ショーイングの場面の練習と全体の通し練習を行い、五日目に各自の作品創りを含む約90分のショーイングを行うことができました。
限られた時間の中での発表となりましたが、参加者が自ら創作し、人前で発表するという機会を得ることができました。またナビゲーターの近藤良平さんから、実際に創作に対するアドバイスや取り組み方法を分かりやすく教えて頂き、参加者にとっても有意義な企画となりました。
今回の企画を通じて知り合えた多くの参加者同士の交流が深まり、お互いに切磋琢磨し、また広島の地から、新たな振付家が誕生することを期待したいと思います。
あなたは、どういう振付家を育てたいと思いますか。
また、そうした振付家を育てるために、何が大事だと考えていますか。
ここ数年ダンス企画の募集要項に、舞台経験豊かな若手ダンサー、ジャンルは問わずと記載しています。地元広島のダンサーは踊ることへの技術磨きにはとても熱心で、魅力的なダンサーも育っています。しかし、そこから生まれるダンス作品が、技術の競い合いにならないか心配しております。もちろん作品創りの面白さに目覚め、自らの表現を模索中のダンサー達もいますが、まだまだ狭い世界の中での活動に止まり、身内感覚から抜け出せません。
人の心を強く動かす魅力的な作品。厳しい道ではありますが、良質な作品創りを志す意欲の有る若手振付家の育成を願っています。振付家として、人間的に豊かな経験と繊細な感性を養うために、ダンス作品創作の場、ダンス活動の環境作りが必要だと思っています。
(コンテンポラリーダンス・プラットフォームを活用した振付家育成事業「ダンスでいこう‼」2019報告書 フリツケカをイクセイする? 第二章p48-53)