カラダでTRY ANGLE
2019年度の実施報告書「フリツケカをイクセイする?」(2020年7月発行)から、松山プラットフォーム の(有)オフィスモガさんのご報告をピックアップ紹介します。
なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、2019年度の成果、どんな振付家を育成したいと考えているか、をお聞きしました。ぜひご覧ください。
なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、当初目的に対する成果、そして今後の展望。
松山では2002年から始まった「踊りに行くぜ!!」が「踊りに行くぜ!!Ⅱ(セカンド)」となり、2016年を最後に途絶え、海外や県外からのダンスを間近で観る機会がなくなった。私たち自身は、生活の中にダンスがあることは必要だと信じ、その後も活動を続けている。風通しを良くして外と繋がり、刺激を受けることが、振付家を育てることにつながると考え、今の松山の土壌をより発展させるために、以下4点を目的に事業を行った。
1、世界のダンスを間近で観ることができる環境づくり
2、若い世代に、いろんなダンスの価値があることを伝え、それが力になっていく事への期待
3、地元を拠点に活動し続けるアーティストへの刺激
4、ダンス以外にも、音楽、演劇、絵画など表現者への新たな展開となるアプローチになること
具体的に、「観る」「創る」「踊る」の3つを柱としてプロジェクトを行った。まず、「観る」という観点で、オーストラリアの振付家、ルーシー・ギャレンの作品「SPLIT」の上演を行った。世界的評価を受けているダンスを実際に間近で見ることができ、若い世代だけでなく10代から80代までの幅広い世代の人々に、新たな価値観を伝えることができて、素晴らしい時間になった。ダンスをしている人、そうでない人にも、本当に素晴らしいダンスというのはきちんと伝わるのだと実感した。地元を拠点に活動しているアーティストやダンス以外の音楽、演劇などの表現者に対しても、創作における新たな刺激やアプローチの幅を広げる一助になった。また、ルーシーと共に舞台を作り、リハーサルや準備を行う過程で、彼女の的確で無駄のない照明づくりや、スタッフに対する優しい言葉かけ、気遣いなど、学ぶべき点がたくさんあった。
「創る」「踊る」については、ルーシーによる2日間のワークショップを開催した。大学生や地元を拠点に活動している振付家・演劇関係者などが集まった。参加者同士の出会いの場となり、お互いがもつ表現方法をシェアする貴重な体験の場となった。
今後の課題としては、「人材育成における課題」と「そのほかの課題」があり、それぞれどのように対応していくかが重要になってくる。
まず「人材育成における課題」について。今回は、海外のダンスを観て体験することができたが、今後、作品を発表しようとする地元の人材が、活動しやすくなるような環境づくりと、より質の高い作品を作っていける作家を育成すること、この2点が課題として挙げられる。ワークショップを受けた人にも、公演を見た人にも、次のステップへと誘導する企画を提案したい。
例えば、松山で活動する振付家の作品を、世界で活躍する振付家に見てもらい、作品をブラッシュアップしていける機会を作るなど、知恵を絞っていきたいと思う。(再びルーシーを招聘して、育成対象となる振付作品は公募するなど。)
「そのほかの課題」として、今回、いろんな世代の人にダンスに触れてもらう機会を作ることができたが、これを一過性のものにしないことである。引き続き、海外からの刺激を持って来れるように、国内だけの交流に留まらず、海外と繋がり、松山に継続的に人を呼べる仕組みづくりをしていく必要があると考えている。特に、大学生など若い世代に関しては「知る」ということも作家としてのスタートになる。毎年、新たな学生がダンスに関わる事を考えると、再び1からのスタートになるため、コツコツと繰り返し伝えていくことが重要だと考える。
「人材育成における課題」、「そのほかの課題」、このどちらの課題に対しても、今後さらに内容を検討しながら繰り返し続けるということに向き合いたい。そのための時間的な問題、スタッフの確保など課題は残るが、どちらかではなく、どちらも必要だと感じている。
事業を終えて、ルーシーから「松山はイキイキと情熱のあるコミュニティだ」と伝えてもらった。この言葉を誇りに、今後も、課題に向き合いながらも情熱あるコミュニティを維持し続けたいと思ってる。
あなたは、どういう振付家を育てたいと思いますか。
また、そうした振付家を育てるために、何が大事だと考えていますか。
広い視野をもち、日本のダンスを世界へ広げて行くことができる振付家。また、観客に問題意識を喚起させるような作品を生み出せる振付家。創作の活動の場においても、作品に対しても、社会に影響を与えることができる人材を育てたいと思う。
振付家は、ダンスというものが<単に観て楽しむだけではなく、考えるための発信媒体となる芸術である>という事を理解して創作の目標におき、粘り強くその人自身の創作の原点を持ち続け、発表し続けることが大事だと思う。
そのためには、学びの場・出会いの場・経験の場・創作の場・化学反応の場・自由にものが生み出せる環境・世界に通用する知識を学べる環境、などが必要になってくると思う。その場や環境をどのようにして作り、維持してくのかについては、疲弊せずに持続できる仕組みを考えていきたい。
また、ダンス作品はダンス関係者や一部のダンスファンが観るものという見方を取り払い、一般の人から専門分野の人たちまで、幅広くダンス作品に接する機会を増やすことも、必要である。心に響く作品や、才能ある振付家に出会えば、観客は活性化し、ダンス作品に触れることが人々の新たな価値観を広げることに繋がり、ダンスの価値も高くなっていくと思う。その事が自ずと劇場の活性化にも繋がっていく。また、企画書を用意しセルフマネジメントができる振付家を育成することも、今後は必要になってくる。将来性や才能ある若い世代が、地元にいながらも1人の自立した振付家として生きていく術を持てるように、取り組んでいきたい。
(コンテンポラリーダンス・プラットフォームを活用した振付家育成事業「ダンスでいこう‼」2019報告書 フリツケカをイクセイする? 第二章p54-59)