DANCE ARTIST VIEW 2019
2019年度の実施報告書「フリツケカをイクセイする?」(2020年7月発行)から、神戸プラットフォーム の文さんのご報告をピックアップ紹介します。
なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、2019年度の成果、どんな振付家を育成したいと考えているか、をお聞きしました。ぜひご覧ください。
なぜこのプロジェクトを行おうとしたか、当初目的に対する成果、そして今後の展望。
これまで、2012-2017年度に文化庁新進芸術家育成事業として実施した「国内ダンス留学@神戸」では国内の才能ある振付家の卵を発掘・育成してきました。実施期の8カ月だけでは万全に育成することはできないため、各期終了後も個々にサポートを続け、オリジナリティのある作品を創作し国内外で評価されはじめた新進振付家を輩出してきました。育成はすぐに成果が出るものではなく、事業終了後数年して、他者からの評価も受けて成果となるものだと考えます。
今、世界が求める振付家は、基礎的な技術や知識は持ちながらも、さらに独自の新しい方法論や視座を持つ人材です。振付家という定義も多様化しています。また、いわゆるよい舞台作品を創る、というステージの上のことだけでなく、新たな社会的価値をクリエイティブに生み出す活動を行う振付家も、今必要とされる人材です。
振付家は、作品を生み出すだけではなく、自らの作品を、誰にどのような環境で観てもらうのかを考える必要がありますし、活動していくための、お金やメンバー、場所のこと等、マネジメントも避けては通れません。
今回の「DANCE ARTIST VIEW 2019」では、幅広い視野でダンスを考えることのできる人材の育成を図りました。5プログラムのうち4つ(View2-5)は、空間、家具、デザイン、モノ、言葉、照明、音、アーカイブ、映像、グローバル、世代、時代など、具体的にアプローチできる入口を、ナビゲーターに作っていただき、育成対象者は、そこに自主的にアプローチするという内容です。
View1「ダンスアーティスト 1Day(1Chance)Produce→」(セルフカルチベート企画)は、アーティストが、自らの活動環境や創造活動に今最も必要なことを自ら企画し、自らの価値観・バックグラウンドとは異なる他者もまきこみながら、表現と活動を前進・展開させるプロジェクトで、公募により20歳代のアーティストによる3企画を決定し、基本的にはそのアーティストがマネジメントし、実施しました。
ここでは、アーティストが今求めている<育成されたいポイント>を明確にすることができ、また彼ら自ら事業化することで、環境をマネジメントすることに意識的になったこと。アーティスト自身が自らが学び成長する場をつくる流れをつくることができたことが、成果としてあげられます。①稽古場のありかたを考える ②高校生など若年層への育成の機会の創出 ③ダンスの言語化 という、その世代に共通する課題意識も浮き彫りとなりました。
世界で勝負できる芸術家や、ダンスで次代を切り拓く人材をを育成するには、実績のある振付家が指導する等という従来の日本型の<教える-習う>という方法ではなく、自らが思考し創造する力をつける世界基準の育成方法が必要です。
今年度は、それぞれの企画が短期であったため、育成の入り口、あるいは前段で終了することが多かったことが課題として残りました。(勿論、その経験を育成対象者自身がその後も反芻、分析する等、クリエイションの場で活かしながら、さらに成長することを期待しています。)
今後は、実施内容とそれに伴う成果が、段階的に、また客観的にとらえられるよう、取り組んでいきたいと考えています。
あなたは、どういう振付家を育てたいと思いますか。
また、そうした振付家を育てるために、何が大事だと考えていますか。
振付家の仕事は、この20数年、ダンスを振り付ける→作品を創る→様々な人を対象にワークショップのナビゲートをする、ワークショップ参加者と作品を創る→自らプロデュースする、と求められることが拡張してきました。その中で、他者を振り付けることが得意な人もいれば、自身の振付で自らが踊ることが得意な人、ワークショップが得意な振付家もいます。自分の世界観で作品を創る振付家もいれば、そこにいる人一人一人から出てきたものから作品にする振付家もいます。キャリアのある振付家でも、実際には個々秀でた部分は異なります。
その中で、ダンスボックスが、この<新進芸術家育成事業>で育てたい振付家は、新しい方法と視座を持ち込んだ演出力を持った人材。それと共に、客観性と、社会性、研ぎ澄まされたクオリティと、見せ方を持つ人。そして、その作品を売り込んでいくマネジメント力を兼ね備えた振付家。このマネジメント力は、その作品がどのような観客に、どのようなメッセージや必要性があって届けるものなのかを作家自身が認識できているかどうか、ということです。これまで、dBの活動を続ける中で、国内外の優れたアーティストは、今の自分の興味や考えていること、売り込める作品についてを言語化し、次の仕事を作って帰りました。この新型コロナを経験した時代だからこそ、作品も活動も、自らサバイブして逞しく創っていけるアーティストを育成したいと考えています。
大事な点は、教育と啓発。今の世界のダンスのフィールドと、歴史的文脈を捉えていること。対話の機会と、考える回路を多く持つこと。作品や状況に対する分析力。振付家として成長するためには、自ら学び、開発する力が大事、と対象者が自覚できるプログラムを今後もつくっていきたいと思います。
(コンテンポラリーダンス・プラットフォームを活用した振付家育成事業「ダンスでいこう‼」2019報告書 フリツケカをイクセイする? 第二章p60—69)