KYOTO CHOREOGRAPHY AWARD 2020 アワード審査について
『KYOTO CHOREOGRAPHY AWAD 2020 アワード審査について』文責:KCA事務局
1,各賞に対する審査の方向性について
KYOTO CHOREOGRAPHY AWAD 2020(以下KCA)は、人材育成のアワードであることを目的としています。その為、賞の性格付け、方向性に関して、これまでのアワードとは違う価値観を表せたらと検討をしてきました。
今回、1回目のKCAとして賞の選考に関して、事前に審査委員の方にお願いしたことは、“作品が素晴らしかった、作品の完成度が高い、技術が高かったという視点よりも、その作品が社会の中に存在する意味、振付家がなぜこの作品を創ろうとしたのか、それは意識したものであれ、無意識であれ、そしてその創ろうとしたものがどのように表れているか、というところに注目して、各賞の候補を選んでいただけたら”とお願いしました。ダンスでしか表現できないもの、ダンスを創るとはどういうことなのかを、改めて問いかけるような賞の在り方になればよいと考えております。その上で今回は下記のような性格つけをしました。(KCA実行委員長 佐東範一)
【KCA京都賞】KCA KYOTO Award/「ダンスは冒険である」という石井達朗さんの著書にあるように、今回最も冒険していると感じた作品。ダンスを創ることは冒険以外の何物でもない、と感じさせる作品。【冒険】とは、危険な状態になることを承知の上で、あえて行うこと。成功するかどうか成否が確かでないことを、あえてやってみること。最もダンスの「冒険」を感じさせる作品を選出下さい。
【KCA奨励賞】 KCA Incentive Award/インセンティブとは、やる気を起こさせるような刺激。動機付け。そのダンスを観たことで、何かを誘発するのではと思える作品。内包する起爆剤を感じさせる様な作品を選出下さい。
【KCA敢闘賞】 KCA Fighting-spirit Award/勇敢に良く戦うこと。「何か」に対して戦いを挑み、新しいダンスの表現に至っていると感じた作品。その「何か」は、これまでのダンスかもしれないし、価値観かもしれないし、現代かもしれない。果敢に挑んでいる作品を選出下さい。
2.審査の過程について
事務局の体制は、森・林が観客賞の集計、坂本は香港賞に関する香港ダンスエクスチェンジ・ディレクターのダニエルとのやり取り、神前が審査会記録及びサポート、佐東が審査会の司会を担当した。
2日目の公演終了後、ミーティングルーム2に全審査員が集合。はじめに各審査委員より全体的な感想を話していただく。今回の6組がそれぞれ方向性や質感が全く違うことが共通認識として出される。そして作品が違うのとまったく同じように、審査員の感想、意見もそれぞれまったく違うものであった。
意見を十分に出し合った後に、黒板の表に、それぞれの作品のところに「京都賞」「敢闘賞」「奨励賞」に〇を入れていった。
その時点で、下島さんの作品に全員が何らかの〇を入れていた。他はばらつきがあった。その中で一番〇が少ない作品について、どうするかを全員で話し合った後、いったんその票を入れた審査委員が改めて他の人に入れなおす事とした。
その後、またそれぞれの意見を出して話し合う。このプロセスを結果的に5回繰り返した。途中、「「敢闘賞」「奨励賞」は選びにくい、3名を同じ「京都賞」にするのはどうか。」「全員に賞を与えることは出来ないのか。」など、様々な意見が出た。
発表予定の時間の午後7時前になっても決まらず、7時5分前に30分の延長を決めた。最終的に、敢闘賞に該当する作品はなく、奨励賞を2作品にするということに落ち着いた。その後、ベストダンサー賞は、比較的すぐに決まった。30分以上遅れて受賞者の発表を行う事となった。
3.審査の過程での審査委員からの各作品へのコメント
全体
〇ポジティブな意味で全員違うと感じた。賞を出すとなると、1番2番3番と順位を付けることになる。それが出来ないと感じた。見ながらどうしたものかと考えていた。コンテンポラリーダンスの多様性をこれほど感じたことはない。
下島 礼紗 / ケダゴロ作品「sky」
〇メッセージ性、あれをやってしまう勇気。考え続けている人であり、評価したい。
〇圧倒的。楽しく見れた。(今回の6作品の中で)海外も含めて再演している作品と、いま作っている作品との差が圧倒的にある。
〇身体の動かし方だけではなくて、身体の痛み、冷たさまで踏み込んでいるところが面白かった。
〇彼女自身がポリティカルな意識を持っているわけではないが、いろいろなことを喚起させる。。
〇冒険力が圧倒的。個人的には好きではない。観客体験としては嫌な人もいると思うが、遠慮せずあえて打ち出す冒険。
〇大好物。しかし一方で、あのやりかたから出られなくなることを危惧している。政治的で少し不謹慎で、というところから・・。自分の芸術的なところから作品が離れていってしまうというか。どのように自分の芸術的なところと付き合っていけるかが少し不透明な感じがした。これからの道は険しいと思う。自分が創った作品に自分が巻き取られないようにしなければいけない。根性と情熱が必要。
○作品としての完成度は高く大変刺激的な作品ではあるが、振付という観点からすると残念ながら新しさは見受けられず、その点に関して今後の更なる研究、努力を期待したい。
松木萌作品「Tartarus」
〇爽快感。ダンスっていいなとシンプルに思った。これを深めていくといい作品になるんじゃないかなと思えた。
〇女性ソロがきれいだった。音と体の動かし方の一致とずらすところ、彼女のやろうとしているところと表現がうまく一致している。
〇ナラティブ(物語)ー非ナラティブな要素を折り込んでいる。そういうものを足して違う要素を入れ込んでいる。トークはうまくなかったが、ポジティブに考えれば話せないぶん作品でカバーしている。作品にそれだけの力があった。
〇今まで見たダンスの概念から自分の中では脱せていないと思った。
横山彰乃 / lal banshees作品「海底に雪」
〇独特の世界観持っている。冒険、次の新しい可能性を感じた。
〇テーマをそのままバンっと打ちだすのではない作品。マネしたくなる動きがある。細かいところが印象に残っている。続けて観たいと思った。
〇いかに実際に行われている事から飛躍できるか。作品がすこしぼんやりしているように思えたが、見ている人にインスパイアさせるインパクトが、ダンスそのもので問いかけるものがある。
小野彩加・中澤陽作品「バランス」
○作品創作に関して振付家を頂点としたヒエラルキーを否定し、開かれたコレクティブな関係でダンス創作を取り組もうとしている点、そういった創作の在り方への志向がダンスのみならずこれからの社会の在り方への挑戦に感じられた点に可能性を感じた。
〇彼らの演劇作品を知っている。そちらの方が形になってきている。センスいい人たちで、これからに期待したい。
〇何かに対して挑む、というところ。以前に拝見したかれらのダンス作品は、とても良かった。リズム、音を使い身体のいろんなリズムをつかう。既定の概念をまず取り払って、ダンスになる前を一から試してみる。演出、振付家、パフォーマーの関係性、三者のヒエラルキーも白紙にしようとしているのだろう。問い直している。何かに対しての挑みにあてはまる。
中根千枝・内田結花作品「移動する暮らし」
○今回参加した作品の中では聴くという行為にしっかりと踏みとどまることを選択しそこから生まれてくる動きをきちんと受け止め多様な声、風景に耳を傾ける身体を通して生まれた、3.11以降をきちんと体現しているダンスだと感じた。
〇貴重だと思った。いちばん感動した。これから舞台芸術がどうなっていくか分からないけど、舞台である必要がとてもある。身体でしかできない。これからどういうスケールを持てるのかが分からないけれども。
〇自分の作品の方向性がはっきり決まっていてそれに向かって作っている。
〇素晴らしいと思いながら見ていたが、様式に終始しているように感じた。緻密な仕事をしていることは評価できるが。振付をつくりこむのはものすごい大変な事。最初から最後までシステムが一緒に思えたので、自分の思いこみをどこかでバサッと断ち切れる勇気が問われる。
〇独特の空気と時間が流れていた。行事とも違う、作りこんでいる感じがした。
〇場所をイメージする、コロナの時代を経て、身体を経て内省的に必死に留まってつくっている。
〇丁寧に作られていると感じたが、伝統的な所作を解体して組み合わせているようにみえる。
〇いまの情勢でこういうものが出てくることにはしっくりくるが、こういうアプローチは、今までもかなりたくさんある。しかし今までの人はその後の展開をみたことがない。小さなスペースでやり続けるケースが多い。最近スケール感の大きな作品がでてこないと感じていて、これからスケールの大きな作品を後押ししたい。
長谷川寧/冨士山アネット作品「Virtual Society」
〇今回「映像の接続がテクニカル的にうまくいかなかった」と聞いた。その為、今回やろうと思ったことが伝わらなかったことは残念であった。
〇もっと知らないところに連れ込んでもらいたかった。
〇身体という意味では、頭で考えているところの方が強いように思えた。
〇触れるということがどういうことなのかなど、いろいろ考えさせてくれた。
〇VRが流行っている中で、VRを用いてトライアルしたと言えるが、実際にできたものを見れていないので、コメントできない。
〇自分自身のリアリティとVRの転換などもう少し欲しかった。
4.【香港賞】に関して
香港ダンス・イクスチェンジ・アーティスティック・ディレクター ダニエル・ユン氏から。
親愛なる皆さんありがとうございました。
今回の香港賞の該当者は無しという事にして来年に開催されるであろう当アワードまで、どなたをお招きできるか見送ることに致しました。
殊に、非常にゆっくりと静かで微妙な動きをされている方達の表現をモニター越しに観て判断するのはアンフェアーだという事に気付かされました。画面越しでは無く、ライブで鑑賞することで本当にどなたをお招きできるか決められないかと痛切に思いました。
そこで、私の最終決断は、来年の当プログラムの実施を待ち、実際に現場で自分の目で見、振付家とお話をして決断したいという事です。なぜなら私のフェスティバルはビエンナーレ形式で2年に一度開催するので、次の開催は2022年の8月以降だからです。追記するなら、私自身は横山彰乃さんのトリオ作品が来年までにどういう風に発展して行くか見守りたいと思いましたが、来年のコンペティションでの作品と並行して熟考できると考えています。皆さんに私の趣旨が理解して頂ける事を切望しております。
以上